ホンダ・NR wikipedia|無料辞書
ホンダ・NR(エヌアール)とは、
本田技研工業が開発したオートバイであり、当初は競技専用車両として開発されていたが、後に一般市販車として製造販売された。
◆NR500
◇開発の経緯
当時のWGPはスズキのRGシリーズや
ヤマハ・YZR500に代表される
2ストロークエンジン車がタイトルを独占していた時代であったが、ホンダが社として4ストロークエンジンを推進していたこと、他社の真似はせず独自の技術を開発するという創業者・
本田宗一郎以来の社風、また以前の参戦では最高峰500ccクラスのライダー・タイトルを獲得できなかったこと等の理由から、4ストローク500ccでの開発が決定した。
また、技術者を育成し、開発した技術を市販車に生かすという「走る実験室」としての目的も兼ねており、開発チーム(NRブロック)はレース経験のない若い技術者を中心に結成された。
◇UFOピストン
2ストロークエンジンはクランク軸1回転ごとに1回の爆発を発生させるが、4ストロークエンジンは2回転に1回と半分である。その為、同じ排気量と回転数では4ストロークエンジンの非力は否めない。しかも当時のWGPのレギュレーションは現在のMotoGPとは違い4ストローク車に排気量のハンディキャップは与えられず、また最大シリンダ数が4と制限されていたため多気筒化による高回転化の道も閉ざされていた。
そこでNRブロックの総責任者・
入交昭一郎は2つの気筒の円を直線で繋いだ形の長円ピストンを発想し、最大4気筒というレギュレーションを満たしつつ8気筒と同じ32本の吸・排気バルブ、8本の点火プラグとコネクティングロッドを備えた
V型4気筒長円ピストンエンジンを開発。こうして(理論的には)2ストロークに対抗できる4ストロークエンジンが完成した。
この異形ピストンは関係者の間で
UFOピストンの名で呼ばれ、技術開発(特に
ピストンリング)にまつわるパテント申請の都合上、NR500及び長円ピストンエンジンの研究が終了する
1984年頃までピストン形状が長円であることは秘密とされた。
◇WGPでの苦戦と開発の断念
しかし、NR500は参戦から3年が経っても他社の2ストロークエンジン勢に苦戦し、勝利どころか1ポイントも獲得する事ができず、また頻発するメカニカルトラブルによって完走すらままならない状態であった。
その結果、NRブロックは長円ピストンエンジンでの挑戦に見切りを付け、
1981年中には2ストロークの
NS500の開発に着手、
1982年にはNS500を主力に据えて参戦。NR500も継続開発・参戦するもののリソースの大半をNS500にシフトしたこともあって、結局4年の参戦を通じて最後まで1ポイントも獲得することなく舞台を去ることとなった。
NR500に見切りを付けた理由については
・2ストロークエンジンと比べて部品点数が多く、メカニカルトラブルが頻発した
・2ストロークエンジンと比べて始動性が悪く、スタートで大きく出遅れてしまう
:(当時のWGPは押し掛けによるスタートであった)
・その時点で技術的にやれる事はやり尽くした感があった
・フレディ・スペンサーとの82年シーズンの契約を確実にするため、勝てるマシンが早急に必要であった
:(シルバーストンの直後に「NR500はチャンピオンマシンになるのは難しい」と漏らした)
・3年経っても勝てないことに、ホンダのイメージを傷つけると内外から不満が出始めた
:(80年代初頭に
HY戦争と呼ばれるホンダとヤマハの苛烈なシェア争いがあった)
といった理由が挙げられる。
◇幻のNR250 TURBO
NR500でのWGPへの挑戦は失敗に終わったが、開発チームはその後も密かに
ツインターボを搭載した
V型2気筒エンジンを試作。NR500のエンジンを二分割したものに
ターボチャージャーを前後シリンダーに1基ずつ装着し、
PGM-FIで燃料を供給。
1983年10月には過給圧2.0で153ps/18500rpmを記録したこの試作エンジンを俗にNR250ターボと称する。
当時のWGPのレギュレーションでは500ccクラスに
過給器付きの250ccエンジンで参戦することが認められていたため、このNR250ターボでWGP500ccクラスに再挑戦する計画であったが、最高出力を追求するあまり低・中回転域での出力が不足していたり(後に排気デバイスの採用で緩和)、ターボラグの発生によるスロットルレスポンスの悪さ、
F1でのターボ禁止の動き、そして耐久性の不足といった理由により開発は中止された。
また、その研究で得られた技術を活かし
VT250ターボを開発するも当時の
運輸省がターボ車を認可しなかった為に幻の市販車となった。またこの件については、当時の馬力自主規制を遙かに上回る出力を発揮してしまったためにお蔵入りしたという説もある。
◇WGPでの全戦績